立花隆

私は今年七十四歳を迎えたが、この年になって世の中が前より一層よく見えるようになった気がする。視覚能力が向上したわけではない。雑多なもの、どうでもいいものは、最初から意識的に排除して、目の前にあっても見えないようにすることで世の中がよりよく見えるようになったということだ。脳に入る視覚シグナルに有意味・無意味フィルターをかけて、自分にとって無意味と思われる情報は最初から一括して高度情報処理系にまわさず、ノイズとして捨ててしまうのだ。 。。。 年をとればとるほど、無関心領域はさらにふえ、かつてかなり関心をもってウォッチしていた政治経済の動きすら、最近はかなりどうでもいいとみなすようになってきた。一般に情報系は流れる情報のSN比(シグナル・ノイズ比)を高めれば高めるほど、シグナルの明晰性が高まるのだ。